ラッパーのSHINGO★西成さんが3月8日、秋田市のフリースクール「Raum(ラウム)」を訪れ、子どもの居場所づくりに取り組む支援者らと対談した。秋田魁新報社の創刊150年企画「だから大丈夫~こどもを守るプロジェクト」の一環。SHINGOさんは、「居場所を考える」をテーマに、ラウムで感じたことや自身の経験を語り、子どもたちのありのままの姿を社会全体で受け入れることの大切さを説いた。対談に参加したのは、フリースクールを運営するNPO法人「秋田たすけあいネットあゆむ」理事長の保坂ひろみさん、ノースアジア大学のボランティアサークル「厚生委員会」メンバーの鎌田翔さん。

 

歩く速さは人それぞれ

 

保坂 ラウムは、学校とも家庭とも違う「第三の居場所」です。日中は不登校の子どもたちがフリースクールとして利用しています。きょうは小学2年から中学3年までの11人が調理実習を行い、パフェを作りました。午後3~6時は無料の駄菓子屋を開いていて、近所の子どもたちや親子連れも来ます。秋田の人は我慢強く、困りごとがあっても察知されないように生活しています。何度も来てスタッフと仲良くなると、「実は…」と話し始めます。いつも同じスタッフがいて悩みに耳を傾けられる場所が不足しています。

SHINGO 俺は自分の経験や言いたいことをラップという音楽にして伝えています。保坂さんとアホなことを言い合っていると、リズムが良いなと思います。さっき俺が「なんか運びましょうか」って聞いたら、保坂さんが「ここに運ぶ物あるよ」って。俺は自然と「はいよ」と言えました。

 ラウムには、みんなを受け入れる独特の雰囲気があります。保坂さんと話すと、日々いろいろな人と出会い、いろいろな経験や価値観を共有していることが伝わってきて、生きる刺激になります。話しやすいので、心の隅っこのことも話したくなります。俺は「受け入れる」ことを大切にしています。理解できなくても受け入れる。生き方や価値観、歩く速度は皆違います。街が、社会が、それを受け入れれば、笑顔が増えて小さい命は救われます。自分の曲にも書いたけれど〈大切を大切にする気持ちを大切に〉と言いたいです。

保坂 歌詞を聞いてSHINGOさんのソウル(魂)を感じました。

SHINGO メロディーや抑揚を付けた方がメッセージが届くと思います。俺にとってラップは伝えやすく表現しやすい方法です。

 

今の自分を受け入れる

 

鎌田 ラウムはすごくにぎやかで楽しそう。僕は「自分らしく楽しくいられる場所」が「居心地のいい場所」だと思います。

保坂 ここに来る子どもたちの中には、一言も話さず時間だけをやり過ごしていた子や、同年代が苦手で仲間に入れなかった子もいました。皆、大人のことをよく見ていて、「この人は誠実だ」と思うと心を開いてくれます。子ども同士の関係も、不登校の理由や家庭環境はそれぞれ違うけれど、似た経験や苦しみを持っていると分かると、心のバリアが外れます。少しずつ自信が出てきて、自分の居場所が見つかります。

SHINGO 「自分らしさが分からない」という子もいますよね。やりたいことや目の前のことをやっていれば、いずれ何かに気付くと思います。完璧を求めず、今の自分を受け入れる。「大丈夫、まあええやん」と思ってそのままの自分を愛する。自分を知り、「こういうとき、私、こうしてしまうんや」と受け入れると、大きく変わると思います。俺は最近「いびつ」という言葉が気になります。曲も作りました。

 

いびつでいいベイベー 無理しないでね

違っていいねんで いびつに生きるベイベー

 

保坂 私は「デコボコ」という言葉が好きです。

SHINGO 俺も好きです。ネガティブに思われている言葉や行動であっても、考え方次第で、違う受け止め方ができます。だからデコボコな人、いびつな人を世の中が受け入れればいいと思います。

 

心の余裕と時間の余裕

 

鎌田 僕は中学1年の時、「学校は居心地が悪い」と感じていました。勉強についていけなかったし、人と関わることが得意ではないと自覚したからだと思います。それで学校に通えなくなりました。高校に進学してからも苦しくて、1年生の途中から通信制高校に転校しました。週1回担任と会うとき以外は家にいました。その時の居心地は「いい感じ」でした。僕が言えるのは、自分に合った環境を考えて、その環境に居続けることが大事だということ。居心地のいい場所は近くにあるかもしれません。

SHINGO どうやって居場所を見つけたの?

鎌田 親と転校先の先生が親身になってくれました。居心地のいい場所を自分で探すのは大変だから、ラウムのような所に相談したり、周りの人と少しだけ話してみたりするといいと思います。居場所を見つけるには、気付きを得るための何かしらの行動が必要です。

SHINGO 自分が変わらないといけないのは、しんどかったね。でも自分と向き合って、サポートしてくれる人の話を聞けたのが素晴らしい。鎌田君は心の余裕があったと思います。一つのことを貫くのも大事やけど、自分がやり切ったと思えたなら、諦めても逃げてもいいと思います。その経験をどう生かすかの方が大事。生きている今日を大事にして、「新たなことを学ぶぞ」という心の余裕を持つのがいいと俺は思います。

 みんな忙しく生きることがかっこいいと思って何十年もやってきたから、心に余裕を持てなくて、しんどいんですよ。忙しく生きることが素晴らしい生き方ではない。それでストレスがたまって、お金を払ってストレスを解消したり幸せを得たりしていたら、お金のない人が不幸になる世の中になります。そういう価値観に合わせず、「あの人に助けられて今がある」「あの人が喜んでくれることをしよう」というシンプルな考えを持てば、自分と、自分の時間を大切にできると思います。心の余裕は、時間の余裕。ゆったり考えた方が自分も周りも救われます。

 

街全体で子どもを見る

 

SHINGO 俺は大阪・西成の家賃4,100円の長屋の、畳が腐ってぶよぶよの部屋で育ちました。母ちゃんがだまされて借金を背負った時に、俺のことを預かって世話してくれた人がいました。スナックで演歌を聞きながら、学校の宿題をやったこともあった。友達がアイドルの曲を歌っている時に、俺は演歌を歌っていました。近所のおっちゃんに「挨拶せんかい」と叱られたけれど、「こんにちは」と言うとチョコレートをくれました。

保坂 街全体が子どもを見ていたのですね。

SHINGO 周りの大人から「この子を助けなければ」というプレッシャーは感じませんでした。向こう三軒両隣で家族のようにご飯を食べさせてくれた。監視カメラで見張るのではなく、住民の目を楽観的に使うのがいいと思います。保坂さんや鎌田君みたいな2人が子どものSOSを受け取ってくれたら、その子はすごく幸せですよね。

保坂 私たちは、県外に進学した大学生に1年間食料支援をしています。月1回「頑張っていますか」という手紙と食品を送ります。多くの子どもに関わって「1人じゃないよ」と伝えたいですね。できることを全力でやりながら、無理せず互いに通ずるところがあればいいです。

 

期待しない、無償の愛を

 

SHINGO 俺の子どもの頃の口癖は「どうせ僕なんか」でした。

保坂 自己肯定感が低かったのですね。

SHINGO 中学の時、近所のおばちゃんに「しんごちゃん、また『どうせ僕なんか』って言ってないやろな」と言われて、しっかりせなあかんと思いました。新しい自分を見つける気持ちでいろいろなことにチャレンジして、スポーツに出合いました。「諸先輩からのお言葉」という曲で近所のおっちゃん、おばちゃんのことを歌いました。

 

近所のオッチャンに習った… ここではこうして生きなさい…

(中略)

馬鹿にしない けなさない キレない 人は一人じゃ生きていけない やろ?

GHETTO‼ 自分愛しなさい! 人愛しなさい!

今を見つめなさい 未来信じなさい

 

保坂 すごい応援歌です。私も子どもたちにエールを送り続けています。

SHINGO 俺は家族にも仲間にも期待しません。「良くても悪くても応援しますよ」という考えでいます。無償の愛です。

保坂 無償の愛です。

SHINGO 今、2人の声がそろいましたね。

 

完璧ではない姿、救いに

 

SHINGO さっき調理実習中に、女の子が「早く大きくなりたい」と言っていました。いい言葉ですね。俺は子どもの頃、そう思えなかった。泣いている母ちゃんを見て「大人は、こんなにしんどいんや」と思いました。俺も子どもたちに「大人になりたい」と思わせたいです。大人は失敗したところや怒っているところも隠さず見せた方がいい。大人も完璧な人間ではないと分かれば、子どもたちは救われます。それが「共生」。共に生きることだと思います。

鎌田 僕は大人になることに対して嫌悪感はありません。親に心配をかけていた時は「なぜ自分のためにこんなにしてくれるんだ」と思って苦しかったけれど、ある時それがなくなりました。早く大人になって親を支えたいし、自分のことを自分でやりたい。大人と子どもの境界は人それぞれで、成長するスピードも違うから「どんなスピードでもいいじゃん」という考え方がもっと浸透すれば、生きやすいと思います。

SHINGO 人生にはたくさんの選択肢があります。選択に悩んだら、お世話になった人が喜ぶことを考えたらいい。その人たちの思いを継いで、どんなことも胸を張ってやったらいいと思います。

 

 

 

「いつもそばにいるよ」

 対談が行われたラウムでは、この日、フリースクールを利用している11人が調理実習でパフェを作った。台所では、子どもたちのにぎやかな声が飛び交う。「アイスたっぷりがいい」「フルーツも入れて」「お菓子も乗せて飾るよ」「お菓子多くない?」―。スタッフに手伝ってもらいながら、手際よく盛り付けていく。

 SHINGOさんは子どもたちが振る舞うパフェをおいしそうに平らげ、後片付けを手伝った。対談終了後には、子どもたちから「ラップを歌ってください」とリクエストを受け、自身の楽曲「ここから…いまから」を歌った。

 

どんなことがあろうと いつもそばにいるよ

アセラズクサラズアキラメズ

ここから今からやればいい 始めればいい

 

 SHINGOさんのメッセージが、ラウムに響いた。

 

保坂ひろみ

1965年新潟県生まれ。会社経営の傍ら、2015年に「フードバンクあきた」を設立。16年「秋田たすけあいネットあゆむ」設立。貧困家庭の食糧支援、子ども食堂、学習支援、フリースクール「Raum」運営など13事業を展開する。県子どもの貧困対策推進委員、県社会福祉協議会アドバイザーなどを務める。

 

鎌田 翔

2003年秋田市生まれ。ノースアジア大3年。学生サークル「厚生委員会」に所属、献血や清掃などボランティア活動に取り組むほか、たすけあいネットあゆむと連携して不登校児童を支援している。学校以外の居場所づくりを目的としたスポーツ交流会などの企画に関わった。

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