秋田魁新報創刊150年企画「だから大丈夫~こどもを守るプロジェクト」の特別ライブが7月26日、秋田市のアトリオン音楽ホールで開かれた。日本を代表するラッパーの般若さんとSHINGO★西成さんがそれぞれパフォーマンス。五城目町出身のラッパー羅漢さんも登場し、無料招待された小学5年生から25歳までの若者や保護者ら約450人とともに会場を盛り上げた。般若さん、SHINGOさんのライブリポートとライブ直後のインタビューを紹介する。

 

周りの言うことなんか聞かず、自由にやった方がいい

 

 「だから大丈夫」プロジェクトを通じて、般若さんは、母子家庭で育ったことやいじめられた経験などを語り、子どもたちに向けて力強いメッセージを発信してきた。「しょせん私は1人と思った方が楽になる」「最悪の時を乗り越えると強くなる」―。特別ライブのために般若さんが選んだ10曲は、こうした発言を意識したものに感じられた。

 前奏とともにステージに登場した般若さんは、1曲目「土砂降りでも」を歌い上げた。この日、本県と山形県で記録的大雨が降ったことに触れ、「こんばんは。大変な時に、こんなに集まってくれてありがとうございます」と観客を気遣った。

 続いて2曲目「はいしんだ」、3曲目「Osanpo」、4曲目「TOKYO KIDS」、5曲目「やっちゃった」。日常の出来事を描写したアップテンポな楽曲が続く。抑揚のあるラップから、自分に向き合い、時に自分の境遇を笑い飛ばして前に進もうとする般若さんの姿が伝わってくる。観客の多くが片手を上下に振ったり、拳を突き上げたりしてリズムに乗った。

 6曲目「シングルマザー」以降は、ステージ上の雰囲気が一転。前奏が始まると般若さんは「手を挙げなくていいから」と観客を制し「シングルマザーとか、シングルファザーとか、そういう人たち、聞いて。俺もそうだったから」と話した。県内の若者たちに幼少期のことを語る時、般若さんは母親の苦労を推し量り、気遣う言葉を口にしてきた。その思いを会場全体に届けるかのようなラップに観客は聞き入った。

 7曲目「大丈夫」は、自身のいじめられた体験を基にした楽曲。大仙市の大曲南中学校ではこの曲をテーマに特別授業を行った。〈一遍座って 大の字になって 空に向かって 大丈夫だって〉―。クライマックスの歌詞に合わせて、ステージに大の字に寝転ぶパフォーマンス。客席の中には、圧倒され涙する人もいた。

 8曲目の新曲「こんな夜を」と9曲目「あの頃じゃねぇ」は、逆境に強く立ち向かう姿を想起させる2曲。〈死にてえとか言うなら 俺のLIVE来て見てから言え〉〈必ず出来る あの頃じゃねぇ 一番強いのは今だぜ〉。力強い言葉を観客に届けた。

 この曲の合間、般若さんは「やりたいことがあるなら、周りの言うことなんか聞かず、自由にやった方がいい。20年後、30年後に生きているかなんて分からないと思って、やった方がいい。ただし数年後、1割くらいは親の言うことを聞いた方がいいぜ」と語った。

 最後の曲を前にステージが明転。般若さんは、舞台袖のSHINGO★西成さんに「せっかくだからやろうよ、SHINGO君」と呼び掛けた。2人は息の合った掛け合いで10曲目「最ッ低のMC」を披露。SHINGOさんは曲の終盤「こんな僕らを見ろ、だから大丈夫」と叫び、鳴り止まない拍手の中、2人はステージを終えた。

 

 

 

みんながやさしくなれたら、「許す心」を持てたら…

 

 SHINGO★西成さんは、県内の子どもたちや支援者らと交わす会話の中で、たびたび自身の曲を口ずさんできた。特別ライブは、これらを中心に11曲を披露。本紙や電子版の読者は、紙面や動画で断片的に見聞きしたフレーズを生で聞くことができた。

 ステージに登場したSHINGOさんは、客席を見渡し「東北、秋田、まいど」と短くあいさつ。すぐさま1曲目「白目」を歌い出した。観客は手拍子したり、拳を突き上げたり。曲の終盤、SHINGOさんが「白目むくほどしんどいことがあっても、頑張っていきましょ」と呼び掛けると、大きな拍手と歓声が上がった。

 2曲目「大胆かつ繊細」を歌い終えたあとSHINGOさんは、観客に「おい、生きてるか」と呼び掛け、3曲目「『生きる』っていうこと」を歌唱。続けて4曲目「知らねえ」の前奏が始まると、SHINGOさんは「面白い生き方をしているやつら、夢を追い掛けているやつら。周りから『無理や』と言われても『そんな常識なんか、知らねえ』って思うやろ。その思いがあるなら一緒に叫ぼう」。観客の多くがサビの歌詞〈知らねえ〉を繰り返し口ずさんだ。

 5曲目「U.Y.C」、6曲目「諸先輩方からのお言葉」、7曲目「心とフトコロが寒いときこそ胸をはれ」とテンポ良く歌うSHINGOさん。8曲目「Nothing」の冒頭、自身の歩みを振り返り「オレは日本で初めて家族を介護しながらラッパーになったアーティストだと思う。歌う人生を自分でつかんだから、やりきろうと思います」と語りかけた。曲の終わり際には「ささいなことでも、一日一日、自分なりの達成感を見つけて頑張ってください。夢が目標になって、目標が可能性につながる」と力強く呼びかけた。

 続いて始まった前奏に合わせてSHINGOさんが9曲目を紹介。「東京に行かなくても、この秋田にいても夢を叶えられる時代になりました。聞いてください。『ここから…いまから』」。歌い終えたSHINGOさんはアカペラでラップを披露した。〈みんなが昨日よりも少しでもやさしくなれたら 「許す心」を持てたら 自分さえ良ければをなくせたら(中略)今こそ伝えたい 叫びたい 祈りたい〉

 10曲目「大阪UP」は、SHINGOさんの地元大阪への愛を歌った曲。羅漢さんもステージに上がり「秋田UP」「東北UP」と歌詞を変えて会場を盛り上げた。観客は手を挙げて体を揺すり、会場の熱気はさらに高まった。

 最後の曲を前にSHINGOさんは語った。「何かをやってみて、あっという間に時間が過ぎたと感じたら、それはきっと自分に合っていることだと思います。目標や夢がない人は、そこから始めたらいいと思います。みんなデコボコでいい、いびつでいい。みんなにそう伝えたい」。秋田市のフリースクール・ラウムを訪問した時に口ずさんだ曲「いびつ」で締めくくった。

 

 

〈般若インタビュー〉

 

選ぶのは自分だから、自分を信じてほしい

 

── 特別ライブを終えての感想は。

般若 「楽しかったです。ライブの楽しみ方は人それぞれなので、僕は見方や聞き方を強制しません。来た人たちが楽しんでくれれば、それでいいと思います」

── 小中学生の観客も多かった。初めてライブを見る子もいた。

般若 「彼らがどう感じたかは、彼ら自身にしか分かりません。僕の曲を聞いてほしいという気持ちは実は全くなくて、ヒップホップを聞く上で、僕が入り口になれたらとてもありがたいと思っています。僕のライブはいろんな世代の人が来るので、みんなが楽しんでくれたら、それが一番です」

── 2月2日付、プロジェクトの初回紙面では、読者に向けた手書きのメッセージに「ひとつ」と記した。どんな思いを込めたのか。

般若 「読者の皆さんと僕は生活している場所が違うので、交わる機会がなかったと思います。普段会うことのない僕たちが音楽で結びつく時、『ひとつ』がキーワードになると考えました」

── プロジェクト全体を振り返り、印象的だったことは。

般若 「みんな話をしっかり聞いてくれました。物事を真っすぐに捉えて純粋。特別授業やライブに参加してくれた人たちが、この先どうなるかは、僕には分かりません。でも、この企画で僕やSHINGO君がやったことにより何かが実を結べばいいと思います」

── 特別授業や対談の中で、般若さんは「素直すぎるのはよくない」と話していた。特別ライブでは「人の言うことは聞かなくていい」と呼び掛けた。

般若 「そんなことを言う大人はあまりいないけれど、僕の素直な意見です」

── 子どもたちにメッセージを。

般若 「好きなことがあるのならば、思い切りやった方がいい。子どもの時は、自分がいる環境を変えられないかもしれないけれど、ある程度大人になったら、環境を変えるのは自分だから。秋田の外に出るか、地元に残って頑張るか、勇気を持って決めればいい。一度外に出て力をつけて地元に戻るという選択肢もあります。選ぶのは自分だから、自分を信じてほしいですね。人生を楽しんでほしい。こんな僕でもすごくそう思います」

 

 

 

〈SHINGO★西成インタビュー〉

 

自分なりの幸せや達成感を感じながら

生活するのがいい

 

── 特別ライブはどうだったか。

SHINGO 「皆さんに喜怒哀楽を出してもらいたいと思って曲を選びました。ラップを初めて聞く人が多いと思ったので、丁寧に歌詞を届けることを意識しました。ステージから皆さんの表情を見て『この人はこの言葉がほしいねんな』『この歌詞がはまったんやな』というのが分かりました。秋田の人は優しいですね。アーティストとして、皆さんといい駆け引きができました」

── 曲の合間も冗舌だった。

SHINGO 「皆さんが何か生の声をほしがっている気がして、いつものライブよりもしゃべりました。秋田の人は聞き上手です。僕は聞き上手はラップ上手だと思っています。ラップ歌ったらうまいんとちゃうかな」

── 般若さんと二人でパフォーマンスした「最ッ低のMC」の曲中、SHINGOさんは「こんな僕らを見ろ。だから大丈夫」と呼び掛けた。

SHINGO 「般若と一緒のステージに立ったのは久しぶり。照れくさかったな。でもステージに出たらいつも通りの般若がいて、こんな僕たちのライブを見た皆さんはきっと『大丈夫』と思ってくれると感じました。いいタイミングで言えてよかったです」

── プロジェクトを振り返り、印象的だったことは。

SHINGO 「対談やアート制作で出会った人たちとライブで再会できました。ライブの最中、目が合って『また会いに行くわ』と言いそうになって、ぐっとこらえました。心強かったですね」

── プロジェクトを通してSHINGOさんは「さまざまな価値観や生き方を認め合おう」と呼び掛けてきた。ライブでは、一日一日を大切に生きてほしいと語った。

SHINGO 「人と自分の違いに悩むのではなく、そこでくすっと笑ったり楽しんだりできれば、物事がいい方向に進むかもしれません。毎日自分なりの幸せや達成感を感じながら生活するのがいいと思います。『一本早い電車に乗れたからラッキー』とか、『いいことがあったから途中でコーヒー買っていこう』とか。そういう気分転換を無理なくできたらいいですよね」

SHINGO 「ライブの時、僕が来ていたTシャツには亡くなった友人の名前が書かれています。『Rest in peace(安らかに眠れ)』という思いを込めて作ったTシャツです。彼は一緒に活動していた大阪のミュージシャン。僕から見たら『そんなちっちゃいことで悩んで死ぬなんて』と思うけれど、彼のように、人は小さいことに悩み、追い詰められていく。だから毎日のしんどいことやイライラをなくすことが大事やし、困っている人を見たら一歩踏み出して助けることも大事。そんな生き方を習慣づけたら、自分の夢を叶えるために進んでいけると思います」

 

 

 

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