日本を代表するラッパーの般若さんと県内の中学生が交流し「生きること」について考える特別授業が2月9日、大仙市の大曲南中学校で開かれた。テーマは「いじめと向き合う」。般若さんは1年生26人を前に、いじめられた体験を題材にした楽曲「大丈夫」の歌詞を読み解き、作品に込めた思いや前向きに生きるための心構えを語った。フリーアナウンサーの大島貴志子さんが進行役を務めた。特別授業は秋田魁新報社の創刊150年企画「だから大丈夫~こどもを守るプロジェクト」の一環として開催した。

 

大島 みなさんは学校でいじめについて話し合ったことがありますよね。きょうは般若さんの「大丈夫」という曲を通して、これまでと違う角度からいじめを考えます。歌詞を見てみましょう。

 

見た目で判断って全然あんじゃん 俺は元々イジメられっ子

母子家庭 学童 ソコは戦場

 

般若 子どもの頃の俺は太っていて、髪はおかっぱで「こいつはいじめられるぜ」という見た目でした。母子家庭で、学童クラブの1学年上の人たちにいじめられていました。特に小学2年の時が一番しんどかった。リーダー格の子よりも先に歩いただけでぶっ飛ばされて、理不尽極まりなかった。プールに沈められて、そのせいで水がだめになりました。だから中学と高校の水泳の授業はずっと見学でした。プールは今も大嫌いです。当時は、いじめが永遠に続くと思っていました。面白くなくて、毎日「どうでもいいや」と思っていました。

 

大島 そこから抜け出したきっかけはありましたか。

 

般若 小学4年の時、プロレスごっこの最中に俺がキレてしまって、反撃しました。いじめられていたやつが仕返しする側に回るのは、一番たちが悪い。「真似はしないで」と思うけれど、俺はそういう手段を選んだんですよね。たまりにたまったものがあった。

 

大島 真似してはいけないけれど、たまった気持ちを発散させたのが良かったのかもしれませんね。

 

般若 その時から少しずつ人生が楽しくなりました。サッカークラブに入って、友達といる時間が楽しいと思えるようになりました。だから俺の人生は小4から始まったと思っています。中学の時は、やんちゃな子とも仲が良かったし、俺は漫画が大好きでオタク気質なところがあったので、それで気の合う友達もいました。交友関係は幅広かったですね。自分のだめな所をちゃんと言ってくれるのが、本当の友達だと俺は思います。

 

大島 音楽に出合ったのはいつですか。

 

般若 小学3年の時、歌手の長渕剛さんを好きになりました。ヒップホップに出合ったのは中学2年。地元のゲームセンターに行ったら、聞いたことのない音楽が流れていました。アメリカのヒップホップグループ「サイプレス・ヒル」。重低音がすごくて、衝撃でしたね。気付いていないかもしれないけれど、みんなも既に何かに出合っている可能性が高いと思います。俺は中学生でヒップホップに出合って、のめり込んだのは高校生になってからです。そういう人は多いと思う。

 

オレをバカにした奴を見返す 人生を新しい服に着替える

 

大島 これは、大人になってからの気持ちですね。

 

般若 いじめられていた頃を振り返ると、バカにされていたと思うことがたくさんありました。俺はコンプレックスの塊みたいな人間で、そいつらを見返したい、認められたいという気持ちが大きかったですね。自分を認めて次に進もうという気持ちで、この詞を書きました。

 

だから大丈夫だって 心配すんなよ オレらは1人

 

般若 生まれる時はお母さんが命をかけて産んでくれるけれど、死ぬ時はみんな1人です。これは俺が常に思っていること。俺は家庭の事情で、小3の終わりぐらいから夜は1人で過ごしていました。外に出ることはなくて、家で自分との向き合い方をずっと考えていました。「1人じゃないよ」と言うのは簡単です。でも挫折した時、「しょせん私は1人。みんなも1人だから大丈夫」と思った方が楽になりますよ。

 

大島 さまざまな考え方を持つことが大切ですね。

 

般若 自分の考え方を持つことも大切だけれど、どちらかというと広い考えを持った方がいいかもしれません。相手の気持ちも分かるようになると思います。

 

大島 生徒のみなさんから般若さんに質問があります。

 

生徒A 「両親居たって 片親だって 金持ちだって 貧乏だって(中略)未来の狭間「孤独」が待ってる」。この歌詞はどういうことですか。

 

般若 どんな境遇でもみんな孤独だぜと言いたい。子どもの時にも、大人に近づく時にも、大人になってからも、孤独を感じます。孤独と向き合える人が強い人だと俺は思う。寂しさを感じても前に進む人は強い。孤独はネガティブなことではないと伝えたいです。

 この話、難しいかな? 大丈夫だよ。適当にやればいいんだ。毎日10割で生きられるやつはいないから。4~7割ぐらいで毎日生きた方がいいし、俺もそうしている。ただ年に何回か10割の時があった方がいいよね。俺はライブは10割で、ライブに向けたトレーニングは12割でやります。やっているふりをする時もあるけどね。俺のトレーニングのコーチは「ライブ本番は7~8割で行け」と言います。大事なことだと思います。みんなは試合や受験に向けて一生懸命頑張るよね。でも当日は8割ぐらいの力で、少しリラックスした方が成功すると思います。

 

生徒B なぜ「大丈夫」ということをラップで伝えようと思ったのですか。

 

般若 「大丈夫」と誰かに言ってもらいたかったからかな。誰も言ってくれないから自分で作ろうと思いました。作って良かったと思います。

 

生徒C 「人生って炎の中 手ェ伸ばして知る」。この歌詞の意味を知りたいです。

 

般若 人はいつか死んでしまうから、それまでの間に熱くなりたいよね。「あの時本気だったな」という瞬間が何回かあればいいと思います。一瞬の熱さは、他人が見たらくだらないことかもしれないけれど、本人にとっては大きなことだと思います。

 

生徒D 私は「現状に満足せず上を目指せ」と言われます。でも大丈夫という曲には「こんだけやった自分を褒めよう」という歌詞があります。なぜこの歌詞を書いたのですか。

 

般若 俺はこの曲の前半で、自分の人生を否定しています。否定して生きてきたけれど、「これだけやったじゃん」というところを一つだけ認めてあげたいと思いました。誰もが上を目指すべきだと思うけれど、がむしゃらに目指すよりも、今の自分を認めて、ちょっとだけ満足してから次に行った方がいいと思う。自分を全部否定するのはやめた方がいい。いったん「今日これやったわ。俺天才」と思って、それをすぐに捨てて次に行く。これを繰り返すと、いろいろなことがはかどると思います。

 問題にぶち当たって、何時間も何日も悩むより、向き合う角度を変えて前に進んでほしいですね。時間が進んでいるのに、自分が後退するのはもったいない。なるべく前に行くのが一番いい。でも、きつい時は休んだ方がいいよ。

 

大島 実はもう1曲題材にしたい歌詞があります。「超たちがわるい」という曲です。サビを見てみましょう。

 

おんなじ事またやるぞ 迷惑じゃんじゃんかけちゃうぞ

タチ悪い タチ悪い 死ぬまでずっと タチ悪い

 

般若 友達と酒を飲んだ実話をラップにしました。俺は真面目な曲ばかり作っているわけじゃない。「周りに迷惑かけるなよ、でもこんな大人もいるから大丈夫だぞ」と言いたいです。人生うまくいかないことの方が多いけれど、ちょっと肩の力を抜くと面白いと思う瞬間はたくさんあると思います。

 

大島 最後に生徒たちにメッセージを。

 

般若 みんなも自分が好きなものを大事にしてほしいと思います。人に何を言われようと、本当に好きなものに出合うことは貴重なことです。きょうはいじめを題材にしたけれど、それ以外の場面でも、困っている人を助けられる人間になってほしいと思います。この授業を入り口にラップやヒップホップに関心を持ってくれたらうれしいです。

あなたが抱える思いを、言葉にしてみませんか。

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