ラッパーの般若さんが4月9日、大仙市を訪れ、不登校や引きこもりの人を支援するNPO法人「光希屋(家)・ひきや」代表のロザリン・ヨンさん(秋田大大学院助教)と対談した。テーマは「不登校を見つめる」。般若さんは、人と自分を比べずに生きるよう説いたほか、何かに挑戦する時の心構えなどを語った。光希屋が運営する集いの場「ふらっと」で開かれた対談には利用者ら約10人が集まり、般若さんの言葉に聞き入った。対談は秋田魁新報社の創刊150年企画「だから大丈夫~こどもを守るプロジェクト」の一環。フリーアナウンサーの大島貴志子さんが進行役を務めた。

 

人と比べずに生きよう

 

大島 子どもたちはなぜ不登校になるのでしょうか。

ロザリン 「ふらっと」に置いている「不登校ノート」には、利用者が自分の気持ちや考えを書き込みます。不登校の理由はさまざまで、いじめに遭ったり、友達との関係がうまくいかなかったり。家庭環境や学校の対応に問題があった人もいます。

般若 ノートを見てもいいですか。字が綺麗ですね。ちゃんと考えて自分の気持ちを書いている。

ロザリン 利用者同士、互いに関わりながら自分と向き合っています。不登校や引きこもりの人は、周りを気にしてしまう人が多いです。無表情、無関心に見えても、実は緊張して無理して人に合わせてしまう。家に帰って考え込んでしまう。だから「学校に行かなくてもいい」という選択肢があれば、行けなくなる。行かなければと思うと、ますます行けなくなるのです。

般若 考えと行動を一致させられないから、うまくいかないと思うのかもしれません。

ロザリン ここでは会話のきっかけをつくるために、自己紹介する機会を頻繁に設けています。パスしてもいいけれど、自分の番が何度も回ってくるから、次第に話せるようになります。誰かの自己紹介を聞いて、似ている所や違う所に気付くと、自然と相手がどんな人かを想像するようになります。話すチャンスをみんなに与えることも大事です。誰かが話さずにいる時、他の人が沈黙を埋めてしまうことがありますよね。「話さなくていいや」「あとは周りに任せよう」と思ってしまうのはよくないです。自分の考えを話しても話さなくてもいい。その空間で自由になれるということが重要で、そういう空間でこそ「私はこのままでいいんだ」と思えるのではないでしょうか。

般若 誤解を恐れずに言えば、学校に行きたくなかったら、行かなくてもいいと思います。学校で教わることが全てではないし、親が言うことも全てではないから。ただ学校に行かないのなら、代わりに自分のやるべきことを見つけるのがいいと思います。

 俺は小学3年生までいじめられていたから、学童クラブに行きたくなかった。でも母親が厳しくて行かなければいけなかった。俺をいじめていたのは、母親の上司の息子だったので、親には言えませんでした。あの頃は、自分の気持ちは自分にしか分からないと思っていました。だから人と自分を比べずに生きた方がいいと思います。完璧な人なんていないから、人と比べて「俺はだめだ」と思わなくていい。学校に行くことは当たり前かもしれないけれど、それが富士山に登るよりもきついと感じる時もある。もしも行けたら自分を褒めればいいし、行けなくても「明日は違うことを頑張ろう」と思えばいい。力の入れ方と抜き方をうまくやる。「適当」が大事です。

ロザリン 自分自身と親を大切にしているから、般若さんが前に進めたのだと思います。

般若 1人の時は、どうすれば人生が楽しくなるかを考えていました。5、6年の頃は好きな音楽を聞いていました。親には心配をかけたくないから、しんどい気持ちを言えませんでした。

 

 

自分の考えを殺さない

 

大島 般若さんは、いじめられても学童に行っていたのですね。苦しくありませんでしたか。

般若 小4の時、俺をいじめた相手に仕返しをするまでは、「人生いつ終わってもいいや」と思っていました。仕返しや暴力がよくないのは大前提だけれど、自分を守ることを考えてください。

ロザリン 喧嘩は本来、命に関わることをしないという前提があって、子どもたちが成長しながら加減を学んでいくものです。今はそれができなくなっています。般若さんは、学校に友達はいましたか。

般若 小中学校の友達とは、サッカーや漫画、自分の好きなものを磨いていく中で自然と仲良くなりました。

ロザリン 「人と自分を比べない」「好きなことを磨く」。この二つがあれば生きやすいと思います。

般若 不登校でも、少し外に出て違う景色を見ると気持ちが変わると思います。運動もした方がいい。1日15分歩く。30分歩けるようになったら、次は走る。運動後にネガティブな気持ちになる人はあまりいないです。心と体に良いことはやった方がいい。俺は30歳までインドア派で、漫画ばかり読んでいました。でも運動を3カ月間続けたら、周りから「変わった」と言われるようになった。それから16年間トレーニングを続けています。トレーニングを通じて知り合った人もたくさんいます。

ロザリン 運動に限らず「まずはやってみる」がとても大事です。一歩踏み出して、今の流れから少し外れてみると、新たな発見をしたり、誰かが何かを言ってくれたりして、苦しい状況から脱出しやすくなります。ずっと家にいると、そのきっかけを失ってしまう。

般若 20年ほど前、死にたいと思ったことがあります。でも遠い未来から「まだ早いぞ」と聞こえた気がしました。マジで死ななくてよかった。スマートフォンやパソコンを見続けるのもよくないです。たくさんの情報が流れ込んできて、自分の考えがなくなってしまう。スマホを触るより本を読んだ方がいい。自分の考えを殺さないようにした方がいい。

 

小さい目標を見つける

 

般若 俺は2歳頃まで母親の実家がある大館市で暮らしていました。3歳で東京に引っ越したけれど、夏休みを大館で過ごした年もありました。今も年に何回かは大館に行きます。秋田はすごくいい所で、自然があって、水も飯もうまい。一方で県民性みたいなものが気になっています。秋田の人は、人の言うことを聞きすぎる。みんな素直すぎる。「嫌なものは嫌」と言っていいと思います。

ロザリン 不登校の中には、大人の言葉が気になり過ぎて、息苦しさを感じている人がいます。ただし、親の「学校に行きなさい」という言葉に従えば、不登校にはならないはずです。大人の言葉に縛られ、動けなくて苦しんでいるのだと思います。

般若 例えば、子どもが「東京に出て芸人になりたい」と言ったら、「お前には無理だ」「普通の会社に入れ」と言う親は結構いると思います。でも好きなことがあるのなら、絶対に続けた方がいい。偉大な野球選手にはなれなくても、バッティングセンターで時速140㌔の球を打てるようになるかもしれない。好きなことで小さい目標を見つけて楽しめばいいと思います。

ロザリン 「ふらっと」の利用者は、最初は自分の好きなことが分かりません。好きなことを見つけて磨いても、それを評価がされるのが怖い人もいます。ある利用者は4コマ漫画を描きます。一気に描いて、しばらく休んで半年後にまた描き始めるというペースです。

般若 この漫画、うまいですね。

ロザリン 気持ちを表す方法はさまざまあるのに、「やっても意味がない」と発言する人もいます。家族や友達がポジティブな言葉をかけても、ネガティブな言葉に傾倒してしまう。ポジティブな方に向かわずに抑え続けてしまう。エネルギーを外に向けることができなくなっていることが気がかりです。

 秋田は「人に迷惑をかけてはいけない」という意識が強い気がします。私はマレーシア出身ですが、「地域になじみたい」「受け入れてもらいたい」と思うと、迷惑をかけてはいけないと意識してしまいます。秋田の人は優しいから、間違ったことをしても受け入れてくれると思うけれど、間違ってはいけないという気持ちになります。

般若 俺の大館の親戚も「迷惑かければだめだ」と言いいます。でも、誰しも1人で生きているわけではないですよね。少しは誰かに迷惑をかけたはず。広い心で受け止めた方がいい。昔の考え方は通用しないし、それで自分たちの首を絞めるのはよくないです。

大島 不登校の子どもたちが一歩踏み出すには、どうすればよいのでしょうか。般若さんは今年3月に大曲南中学校で行った特別授業の際、「1人の時間が大事」と話していましたが、社会に出ることも大事ですか。

般若 人と触れ合って得たことについて、1人で考え、次に進むことが大事です。「ふらっと」を利用する人たちは一歩踏み出してここに来ているのだから、次は、ここではない別の場所に行くことを想像してください。イメージトレーニングは大事。俺は何かに挑戦する時、いくつかの山場を想像して、1個ずつクリアするイメージを持つようにしています。

ロザリン 成功するイメージを持てないままチャレンジすることはありますか。

般若 ありますよ。その時は少しだけ反省するけれど後悔はしないです。イメージする時は、まず自分の弱点を探します。弱点を別の強みで補うという気持ちに切り替えたらいい。話すのが苦手という弱点があっても、絵を描けるという強みがあるのなら、それを磨けばいいと思います。「やらないよりは、やってみる」「合わなかったらやらなくてもいい」という気持ちでいいと思います。

 今がしんどい人に「その時間は必ず終わるよ」と言っても、信じてもらえないかもしれません。でも、しんどい時期を少なからず過ごした俺としては、「嘘じゃないよ」「信じて」と言いたい。しんどい時期を自分で終わらせることもできるはずです。1年後、「悪いことばかりじゃなかった」と思えるかもしれません。

ロザリン そういう自分をイメージするのですね。

般若 最悪の時を乗り越えると強くなります。「あの時の自分に戻りたくない」と思ってまた頑張るようになります。

ロザリン 思い切って走って転んでも、もう1回走り出せばいいということですか。

般若 転んだときに、次の修正点が分かればいいと思います。俺もたくさん失敗してきたから、「俺みたいなやつがやれているから大丈夫だよ」と言いたいですね。

 

 

 

ロザリン・ヨン

1976年マレーシア生まれ。東京大大学院博士課程修了。秋田大大学院医学系研究科特任助教を経て2016年から助教(公衆衛生学)。ひきこもりの人たちを支援するNPO法人「光希屋(家)」代表。

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