秋田魁新報社は今年2月から、創刊150年企画「だから大丈夫~こどもを守るプロジェクト」を展開してきた。日本を代表するラッパーの般若さん、SHINGO★西成さんと共に、いじめや不登校など子どもの問題について考える特集を6回にわたり掲載。7月下旬には、般若さんとSHINGOさんの特別ライブを秋田市で開いた。プロジェクトの締めくくりとして、二人のメッセージを受け取った県内の人たちの思いを伝える。読者で中居釣具店代表の山田希望さん(29)=潟上市、ライブを見た県PTA連合会会長の清水隆成さん(47)=秋田市、ライブに出演した五城目町出身のラッパー羅漢さん(37)が語った。
山田希望さん [中居釣具店代表]
「居場所って何歳になってもわからなくなったりするよね」―。海釣り用の毛針専門店「中居釣具店」を営む山田希望さんは、4月14日付本紙の特集を見てSNS(交流サイト)に書き込んだ。特集テーマは「居場所を考える」だった。
山田さんはSNS上で「毛針ちゃん」の愛称で知られる。特集掲載の度にこのSNSに紙面の写真やコメントを載せた。「私も思春期に偏見や不登校で苦しんだから、子どもにも大人にも読んでほしかった」。SHINGO★西成さんが対談で語った「みんな違っていい。いびつでいい」という言葉が心に響いた。山田さんは「自分のことを『変な子』だと思って生きてきたから、『いびつ』はいいことなんだと思えた」
山田さんは中学3年から4年間カナダに留学。当初は言葉が通じず人種差別のような扱いを受けて学生寮の自室に引きこもった。高校の聖歌隊に入り人間関係が変化したが、「大人になってもいじめはある。偏見を感じることもある。結局何歳になっても悩みは変わらないと思っていた」
帰県して働き始めてから、ラップを聞くようになった。「人に合わせてばかりで、言いたいことが言えなくなった時期があった。ラップは言いたいことをストレートに歌詞に乗せるから格好良い」という。だからこそ「本音を歌うラッパーと一緒に子どもの問題に向き合う『だから大丈夫プロジェクト』は衝撃的だった」。
特集紙面を秋田市の川反店の店内に貼り、興味を示す人に「読んでみて」と声をかけている。「実は俺も不登校だった」「子どもとの関係に悩んでいる」と打ち明ける常連客もいた。「新聞をきっかけに深い話をする機会が増えた」と山田さん。「家庭や職場に居場所がある人も、そこから逃げたくなることがある。この店で息抜きしてから、いつもの居場所に戻っていく。そういう人たちがつながる場をつくりたくて祖父の店を継いだから、SHINGOさんの対談を読んで『私のやってきたことは間違っていなかった』と思えた」と語った。
清水隆成さん [県PTA連合会会長]
「だから大丈夫特別ライブ」は、多くの親子連れが観覧した。県PTA連合会会長の清水隆成さんは「想像していた会場の雰囲気とは違うな」と感じた。「僕らが若い頃、ヒップホップやラップは〝悪そうな奴ら〟が聞く音楽というイメージがあったと思う。でも今は違う。特別ライブは、既成概念にとらわれなくていいなと思った」と話す。
ラッパーの般若さんは子どもたちへ「好きなことがあるのならば、周りの言うことなんか聞かず、自由にやった方がいい」と呼び掛けた。この時、清水さんは「子どもたちには、親に止められても諦めないくらい好きなことを見つけてほしいと思った」。
般若さんが生い立ちを語り「こんな大人もいるよ」と言ったことも印象に残った。「僕はヘビーメタルが好きで、ずっと聞いてきた。王道のポピュラーミュージックから一線を画すという意味で、ヒップホップとヘビメタは通じるものがあると思う」と清水さん。「王道ではなくても、胸を張って生きる大人がたくさんいる。そういう大人がいることを、子どもたちに見せることが大事だと、ずっと思っていた」
清水さんは、秋田市PTA連合会会長を2年務め、昨年度、県P連会長に就任した。親として地域や学校と関わる中で、気がかりなことがある。「勉強が得意な子、スポーツができる子、どちらもあまり得意ではない子…。地域にはさまざまな子どもがいるけれど、みんなが同じペースで勉強して学校生活を送っている。それを苦しいと感じる子もいるだろう」
県P連は不登校の子どもとその親を支援する活動に取り組んでいるが、清水さんは子ども一人一人の多様性に光を当てる活動の重要性も感じている。「偏差値の高い高校や大学に進学することがいい人生とは限らない。親は子どもに理想を押しつけてしまいがちだけれど、将来の選択肢をたくさん示してあげることが大事。県P連としても取り組みたい。どんな子をも照らす学校や地域をつくりたい」
羅漢さん [ラッパー]
羅漢さんは特別ライブのオープニングに出演した。般若さん、SHINGO★西成さんと同じステージに立った経験は何度かあったが、今回は特別な思い入れがあった。「子どものためのライブだから、秋田のラッパーが二人と同じステージに立つところを見せて、みんなに勇気を与えたかった」と語る。
ステージ上から観客に「スポーツを頑張るとか、家族を守るとか、何でもいいから胸を張れる生き方を見つけてほしい。突き進めば仲間に出会えるし、チャンスが訪れる。そのチャンスに食らいついてほしい。俺は秋田でそういう生き方ができることを証明していく」と力強く宣言した。
羅漢さんは中学生の時、テレビ番組でラップを知り、高校生でヒップホップにのめり込んだ。初めて買ったCDは般若さんのアルバム。「般若さんの曲を初めて聞いたときは、人生が変わったと思うくらい面食らった」と振り返る。「ライブに来てくれたみんなと同じように、俺も昔、客席で般若さんやSHINGOさんを見ていた。ラッパーをやめたいと思うこともあったけれど、20年続けたから二人と一緒の舞台に立っている。諦めず願い続ければ夢はかなうと伝えたかった」
8月上旬、羅漢さんは秋田市の児童養護施設を訪問し、ライブを見た高校生らと交流した。「『めちゃくちゃ刺激を受けた』と言ってくれた。ライブを見てから、ずっとラップを歌っている子もいると聞いた」と羅漢さん。「将来音楽に関わる仕事に就きたいという子には、育った環境は関係ないよ、気持ちが大事だよと話した。好きなことがいくつかあると心にゆとりができるから、見つけた方がいいよという話もした」
今後も子どもたちとの交流を続けるつもりだ。「誰か一人にメッセージが届けばいいと思ってやっている。そのためにCDを出して、ライブをして、ラッパーとして当たり前のことを続ける。俺にできるのは、それしかないと思っている」
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